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最高裁判所第三小法廷 昭和32年(オ)481号 判決 1960年6月14日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人久保田美英の上告理由第一点について。

論旨は、帰する所自創法六条、一八条は、農地の買収、売渡の権限を政府から市町村農業委員会に委譲するものであつて違憲であると主張する。

しかし、自創法は、政府が同法第一条の目的を達成するために農地を買収、売渡し得ることとした上で、政府の機関である農業委員会に買収、売渡の具体的権限を付与したものであつて、所論のように政府の権限を農業委員会に委譲したものではない。論旨は、自創法の誤解を前提として原判決を非難するに外ならぬ。

論旨は、採用し得ない。

同第二点について。

論旨は、本訴の当初の請求の趣旨は、原審において提出された昭和二五年六月二四日付準備書面により更正されたにも拘らず、原審が更正後の新たな請求につき判断しなかつたのは判断遺脱であると主張する。

記録を調査するに、所論の如き準備書面が原審に提出されたことは、所論の通りである。しかし、右準備書面は、弁論において陳述されないままに終つている。従つて、原審が右準備書面による請求趣旨の更正を考量に入れなかつたことは当然であつて、原審に、所論の違法はない。

論旨は理由がない。

同第三点について。

論旨は、帰する所本件土地が自創法五条、四条による買収除外を相当とする土地に当らないとする原審の判断は実験則に反し違法であると主張する。

しかし、原審認定の事実関係の下で、原審が本件土地をもつて近く使用目的を変更することを相当とする農地に当らないと判断したことは正当であつて、原審に所論の違法があるとはいえない。論旨は、採用し得ない。

同第四点について。

論旨は、原判決に審理不尽、理由不備、理由齟齬の違法があると主張する。

一、原判決に審理遺脱のないことは、論旨第二点について説明した所により諒解すべきである。

二、強行法規に違背する場合がすべて当然無効の原因となるものではなくして、その違背が重大かつ明白である場合に限つて無効原因となるものであることは、当裁判所の判例の趣旨とする所である(昭和二六年(オ)第八九八号、同三〇年一二月二六日第三小法廷判決、集九巻一四号二〇七〇頁)。所論は独自の見解を主張するに過ぎない。

三、農地調査規則に基く調査は、買収計画議決のための法律上の要件でないから、右調査の有無を審判しなかつたからといつて、審理不尽とはいえない。

四、所論の認許は買収計画議決のための法律上の要件ではないから、原審がこの点を審査しなかつたのは当然である。

五、原審は、買収計画議決が適法に行われた旨を審判して居るのであつて、原審に審理不尽はない。

六、原審の認定するところによれば、自創法六条二項所定の事項を記載した買収計画書に基き、右記載内容通りの買収計画を樹立する旨の議決がなされたのであつて、買収計画書に、計画が議決に基くものである旨を記載すること若しくは議決に関与した委員が署名することは、法律の要求するところではないから、これを欠くからとて買収計画書乃至買収計画樹立の手続が違法であるとはいえない。原判決は、「買収計画の樹立には、法令上必ず書面を必要とするわけではない」と説明して居るけれども、原判決は、法律の要求する事項を掲げた買収計画書が作成されていたことを認定して居ること、前述の如くであるから、この説明は、買収計画樹立の手続を適法とする原審の結論を左右しない。

七、原審の認定によれば、買収計画樹立の議決に基き農業委員会を代表する会長がその権限により買収計画樹立の旨を公告したのであつて、公告をなすべきことにつき特に議決を要するものでないこと、公告は単に計画樹立の旨を公告すれば足りることは、原審の判断する通りである(昭和二五年(オ)一一三号、同二六年八月一日大法廷判決、集五巻九号四八九頁〕。また原審の認定によれば、自創法六条五項の記載要件を充たした買収計画書と表示された縦覧書類が適法に縦覧に供されたのであるから、縦覧手続に違法があるとはいえない。

八、買収計画書には、自創法六条二項所定の事項を記載すれば足りるところ、原審の認定によれば、本件買収計画書に所定の事項の記載があつたのであるから、原審の結論は正当である。

九、一〇、一一、異議却下決定及び訴願裁決に無効の瑕疵がないとする原審の判断は正当であつて、所論は採るに足りない。

一二、原審は、昭和二二年九月一九日付で訴願の裁決がなされ、裁決書は本訴提起の日である昭和二三年三月一三日以前一箇月内に上告人に送達された旨を認定しており、本件の判断のためには裁決書送達の具体的日時を確定する必要はない。

一三、一四、一五、一六、県農業委員会の承認が、いわゆる行政処分に当らず、訴訟の対象とならないものと解すべき以上(昭和二五年(オ)第三二九号、同二七年一月二五日第二小法廷判決、集六巻一号三三頁、昭和二五年(オ)第一六〇号、同二七年三月六日第一小法廷判決、集六巻三号三一三頁)、所論の点は審判する必要がない。

一七、買収令書の無効確認請求は、昭和二五年六月二四日付準備書面に記載されていたが、原審の口頭弁論において陳述されないままに終つたことは前述の如くであるから、買収令書の無効につき審判しなかつたことは当然である。

一八、原判決中「買収計画の樹立には、法令上必ずしも買収計画書なる書面を必要とするわけではない」との原審の説明は、原審の結論を左右するものでないことは、前述のとおりである。その他原審が買収手続上の各個の行政行為の性質及び各個の行為の関連につき判示した部分は、すべて正当である。

論旨は、すべて理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石坂修一 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己 裁判官 高橋潔)

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